6月の「夏みかん」~「白いぼうし」について考える
「これは、レモンのにおいですか」「いいえ、夏みかんですよ」というお客と松井さんの会話から、この物語はスタートします。そして松井さんは、誤って逃がしてしまった蝶の代わりに、その夏みかんを白いぼうしの中に入れます。さらに、「車の中には、まだかすかに、夏みかんのにおいが残っています」という文で幕を閉じます。つまり、全編を通じて「夏みかん」が重要な役割を担っていると言うことができそうです。
その夏みかんについて、物語の初めの方に「もぎたてなのです」と記されています。物語は「今日は、六月の初め」なのにです。なぜそんなことが気になったかというと…私が以前住んでいた職員住宅の周りは、一面「甘夏みかん(夏みかんの突然変異を品種化したもの)」の畑。私も冬休みの余暇を利用して、しばしお手伝いをしましたっけ…そう、「冬休み」にです。ですから、改めてこの「白いぼうし」の授業に取り組もうとしたとき、この「もぎたてなのです」という言葉が、私にはどうしても引っかかりました。そこで、ネットで調べたり地元のみかん農家やJAの方に取材したりした結果、以下のようなことが分かってきました。
1)5月頃、白い5弁花が咲く。晩秋に実がなるが、そのままとらずに初夏までたつと樹上で熟し、酸味が抜けて食べやすくなるため、初夏の食べ物として売り出されるようになった。
2)しかし木に実がなったまま冬を越すと実に栄養をうばわれるため、できるだけ早く収穫を終わらせて木を休ませないと、翌年の収量が大幅に落ちてしまう。6月まで木にならせたままだと、傷がついたりして見かけが悪くなることが多い。
3)市場は、形が良く、甘くて食べやすいみかんを求めている。すっぱいものは嫌われる。そこで2月頃ある程度おいしくなったところで収穫し、冷蔵庫で熟成させるようになった。
これらのことから、6月の夏みかんが「もぎたて」ということは、売り物ではない、樹上で熟したミカンだと言うことが分かります。これらの事実を元に、「白いぼうし」を子どもたちと一緒に読みました。そしてこの夏みかんはどんなものか、という話し合いをしました。
- 見かけは悪いかもしれないが、味がよくて、かおりがいい
- すっぱいけれど元気が出る。
- 店には売っていない味をとどけたいという、お母さんの思いがいっぱいつまっている
子どもたちからは、このような意見が出されました。そしてこの「夏みかん」の理解をもとに、物語の読解を進めました。
- 松井さんのお母さんは、そんな特別な夏みかんだから、わざわざ速達で送ってくれたんだ
- そんなお母さんの温かい心遣いが嬉しかったから、車に乗せて自慢したかったんだ
- 大切な夏みかんだからこそ、男の子に蝶の代わりにあげたんだ
- そんな人の気持ちのよく分かる人だから、他の人には聞こえない蝶たちの声が聞こえるんだ
たった9人少人数クラスとは思えぬほど、授業者冥利に尽きるような意見が出されました。そして極めつけの発言。
レモンのにおいと夏みかんのにおいって、すっぱいにおいで似てるから、ふつう『はい』とか『ええ』とか言ってから『夏みかんですよ』って答えるでしょう。なのに松井さんは、『いいえ』って答えてます。それは、夏みかんが特別な物なので、他のと間違えるなよ、と言いたかったからだと思います
私も、思わず「参った!」と言いそうでした。だから、国語はおもしろい!!
/天草四郎



